ピカレスクに心酔
ふー、ふー、と一定のペースで湯気をかき消していたら、唐突に実里が言い放った。ふ、と中途半端な息が漏れて宙を漂う。
「来年、じゃないか。高校に合格したら、春から出ようと思ってるんだ」
決定事項のように伝えられて、私はどうすればいいのか。どうせ否定したところで覆されるわけでもないのに。
真っ先にそんな捻くれた感想が浮かんでしまったのは、実里がいなくなると分かって安堵した自分に気付いたからだ。醜い感情を誤魔化したくて、せめてもの抵抗で不貞腐れたように取り繕っている。
「……どこの高校行くの?」
やっとの思いで絞り出した質問には驚きも落胆も滲んでいなくて、自分で自分の薄情さに引いた。
大丈夫だよ、と実里が苦笑する。
「お姉ちゃんのところじゃないから。ちょっとここからは遠いの。寮に入ることになる」
「……そうなんだ」
実里が同じ高校に来ることはない。
認める。それを知って私は確かに「良かった」と思っていた。だけれど、遠い、寮暮らし、とまで聞くと曖昧な罪悪感が胸中を覆う。
まだ十五歳なのに親元を離れて暮らすなんて、私なら絶対に無理だ。
ううん、実里はもっと幼い頃から一人で何かを抱えている。この先もきっと、私がその何かを知り得ることはない。
実里のことも、他の誰かのことも。私ばっかり、何も知らずにのうのうと自分のことだけ考えて生きている。