ピカレスクに心酔
私は坂井忍という人を全然、何にも分かっていない。
当然だ。別に仲良くもないし、委員会がたまたま一緒だっただけのクラスメート。一言も話さず終わる日の方が多いわけで。
知りたい。知ってみたい。ただの好奇心だったとしても、もう小指を結んだのだから手遅れだ。
約束だろうと契約だろうと、それは二人いないと成立しないもの。向こうにだって私を巻き込んだ責任はある。
『俺には聞いていいけど、あいつには聞かないでね』
とはいえ、何も知らない坂井に一体どうやって近付けばいいのか。直近の懸念はそこだった。
放課後、遊びに誘ってみる? さすがにいきなりすぎるかも。普通に断られそうだし。そもそも、坂井と二人で何を話せばいいか分からない。
数学そっちのけで色々思考を巡らせてみるも、適切な答えは出なかった。
上の空で黒板を眺めているうちに授業は終わりを告げ、帰りのホームルームが始まる。
「来月は学年末テストだからな。今からちゃんと準備しておけよ」
森先生の忠告に、教室のあちらこちらから呻き声やため息が聞こえた。ついでに言うと、私も「げっ」とあからさまに嫌がってしまった。
ホームルームが終わり、今週は理科室の掃除当番だったので、班のみんなと駄弁りながら廊下を歩く。
「あ」