ピカレスクに心酔
その途中、階段を上がっていく坂井を見つけて思わず声が出た。
二年生の教室は三階、掃除当番で割り当てられている理科室と英語準備室も三階。四階は一年生の教室ばかりだし、この時間に行く必要なんてないはずだ。
「朱南ちゃん? どうしたの?」
唐突に立ち止まった私を振り返って、羊が首を傾げる。
彼女は比較的真面目でのんびりしていて、ちょっと抜けているところが愛らしいクラスメートだ。白羊、という珍しい名前を持っているせいで、大体最初は「ひつじちゃん」と呼ばれるらしい。
秋の修学旅行で同じ班になり、そこから仲良くしてくれている。
「ううん、何でもない! えっと、ハエが飛んでただけ」
「えっ、いま冬だよ!?」
「だ、だよね~! あは、やっぱり見間違いかも!」
自分の誤魔化し方が下手すぎて泣ける。羊が天然で助かった。
大丈夫? と不安気に丸い瞳を揺らす彼女の横に追いつき、力強く頷いておく。
いつもはゆっくり丁寧に掃除をするのに、坂井のことが気になって埃の一つや二つ、余裕で見逃していたかもしれない。
終わるや否や理科室を飛び出して四階へ急いだ。