ピカレスクに心酔
妙な誤解をされているかもしれないけれど、これ以上手の内を明かすわけにもいかない。ひとまず無難な質問で話題転換を試みる。
坂井はどことなく腑に落ちない様子を滲ませながらも、そうだね、と私から視線を逸らした。
「そ、そうなんだ~。でも分かるかも、家だと誘惑多すぎて集中できなかったりするもんね」
図書室や自分の教室で勉強するならまだしも、わざわざこんな辺境の地に居残る人は滅多にいない。晴れの日じゃないと薄暗いし、校舎内にいる部活動の生徒の声で地味に騒がしいし、ベストポジションとは決して言い難い場所のはずだ。
坂井は毎日比較的すぐに教室からいなくなるから、てっきり家に直行しているものだと思っていた。
「……うん、まあそんなところかな」
あ、はぐらかされた。
苦笑気味に歯切れ悪く受け応える彼に、もどかしさを感じる。
別に今まではどうってこともないし、なんてこともなかった。曖昧に誤魔化されようと本音が見えなかろうと、私にとって坂井は気にならない程度の存在だったのだ。
今だって坂井のことは――坂井自身のことは、あんまり気にならないけれど。
『せっかく泣いてるのに、隠したらもったいないでしょ』