ピカレスクに心酔
その奥で眠っているだろう「彼」に、紛れもなく興味を惹かれてしまっている。
穴が開くくらい真っ直ぐ私を見つめていた。何でも聞いて、と言っていた。名前を呼んで、と幼子のように乞われた。
強引に暴かれた負の感情を、しっかり受け止めてくれた。
気まぐれだったとしても、危険な温度だったとしても、私はあの一瞬、僅かに、救われてしまった。
だから知りたいのだ。質問を重ねて、名前を呼んで、不確かな彼の存在を少しでも長くここにとどめておきたい。
「ねえ。私も、ここに勉強しに来ていい?」
坂井の隣の椅子を引いて、静かに腰を下ろす。
努めて真っ直ぐ彼の瞳を射抜いても、変わらず困惑と焦燥の気配が漂っていた。
「別に俺だけの場所じゃないから、俺に許可取らなくても……」
「あはは、確かに。じゃあ部活ない日は来ちゃおーっと」
どれだけ隣から白い目で見られても構わない。私が気になるのは、知りたいのは、彼じゃなくて「彼」だから。
窓の外は既に暗かった。
何の変哲もない冬の日、ただのクラスメートと二人。それでも私の胸中はどこか軽く、清々しかった。