ピカレスクに心酔
この場にそぐわない明るいトーンで問いかけたつもりだった。お得意のへらへらした笑顔で、彼女たちの望む「いい子」を全うしたはずだった。
喉の奥で、誤魔化しきれない熱と震えが唸っていた。
「何のって……」
ユキがうろうろと視線をさまよわせる。
自分の中に、うまく形容しきれない靄のようなものが積み重なっていく。もういつから積み始めたのかも分からない、何層にも重なった化石。
誰かに対して、明確に負の感情を抱くことは苦手だ。口に出してそれを主張するのも苦手だ。
相手を傷つけたくないからとかそんなに優しい理由ではなくて、私はきっと、自分が悪者になるのが一番怖くて嫌なだけ。
胸につっかかっても心を引っ掻かれても、汚い感情になってしまう前に全て飲み下す。
綺麗でいい子な私でいたい。それ以上でもそれ以下でもなく、ニュートラルに、誰にとっても無害な存在でいたい。
「最近? あーっ、確かにテンション低かったかも? 調子乗って毎日アイスいっぱい食べてたらお腹下しちゃってさ~、トイレとお友達なんだよね~」
やっぱり自分は嘘が壊滅的に下手くそなのだと思う。
羊と違って、ユキたちにこんな理由がまかり通るわけがない。わけがないし、まかり通って欲しくない、のに。
「……あ、あ~~~そうだったんだ!」