ピカレスクに心酔
3
「朱南、昨日夜更かししてたでしょ」
慌ただしい朝、ダイニングテーブル。
チーズトーストを一口かじった私に、母が咎めてくる。
返事の代わりに瞬きを繰り返し、眠気を誤魔化した。
「友達と電話もいいけど、勉強は大丈夫なの? 面談でも進路希望早く提出しなさいって言われてたでしょ」
コーンスープを啜って尚も返事を寄越さない私に、これ以上の追及は無駄だと考えたらしい。母は踵を返して「全くもう」とため息を零した。
向かいに座る父は新聞片手にコーヒーを嗜んでいる。
そのコーヒーを淹れた張本人である実里はといえば、すでに朝食を済ませてキッチンを片付けていた。
「……友達じゃないもん」
ワンテンポ遅れて呟いた私の答えは、誰の耳にも届かず消える。
『我慢しないで全部言えばいいのに。平気なふりするから好き勝手されるんだよ』
簡単に言えたら苦労しない。何年も積み重ねてきた習慣や癖を直すことは容易ではない。
けれど、そういう自分でもいいのだと肯定してもらえた事実は、どう足掻いても確かな歓喜として私の真ん中に残っていた。
『じゃあ忍に、助けてって言ってもいい?』