ピカレスクに心酔
泣き腫らした顔で伝えた昨日、彼は「いいよ」と私の頬を指先で撫でた。その温度が存外優しくて驚いたのが記憶に新しい。
「俺に何して欲しいの」
「え?」
「朱南のこと傷つけた奴、全員泣かせる? 顔と名前教えてよ。どういう仕打ちがいいかな」
笑いながら問うてくるのが恐ろしさを助長した。言葉に詰まった私に、彼は首を傾げる。
「痛いのがいい? それとも精神的にきつい方がいい? 盛大に泣いてもらおうか」
「し、忍、待って……違う。そういうんじゃなくて、」
「なに?」
「嫌わないで欲しい」
短い欲求を発した途端、沈黙が落ちた。耐え切れず俯いた自分のつむじに、彼の視線が刺さっているのが分かる。
「我儘言っても、泣いても、色々上手くできなくても……忍は私のこと、嫌わないで欲しいの。私の味方で、いて欲しい」
もう既にこの発言が我儘な自覚はあった。でも彼なら、醜い私だって否定せずに受け止めてくれるような気がした。
だって、忍の前ではいい子じゃない私をみせてばっかりだ。みっともなく弱音を吐いて、ぐちゃぐちゃに泣いて、それでも忍はいなくならなかった。
「……あと、泣き顔見るのは、私だけにして」