ピカレスクに心酔


夜に電話をしたい、と申し出たのは私だった。
前に「寝て起きたら人格が元に戻っている」と聞いたことがあったので、その瞬間に立ち会えば何か得られるかもしれないと思ったからだ。

忍はかなり難色を示していたけれど、私の押しに負けたらしい。
いざ繋がった電波越しに交わした会話はどれも些細な内容で、謎を紐解くための有益な情報は皆無に近かった。それもそのはず、忍はつい最近この世界に生まれた人格であり、坂井とは異なる一人の人間だ。

坂井のことを聞いても「よく分からない」の一点張り。何となく、ずっと一緒にいたような不思議な信頼感はあるけれど、具体的にどういう人なのかは知らないのだという。
それでも忍は坂井のことを大切に想っているようだった。坂井がいなければ、そもそも忍という人は生まれていない。その事実を抜きにしても、背中を預けている相棒のような親しみを込めて「あいつ」と呼んでいた。


「あいつは俺の存在すら知らないから。朱南、本当にあいつに変なこと言わないで」

「分かってるよ。ちゃんと上手く誤魔化しておく」

「朱南って、あいつと仲良いの?」


そう問いかけられて、答えに困ってしまった。
仲がいいどころか何も知らない。むしろ、これから仲良くなるためにこうして忍から情報を引き出そうとしていたくらいだ。でも、それがバレたらきっと怒られる。


「うん。……結構、それなりに」

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