ピカレスクに心酔
妙な間が空いてしまったのと、棒読みになってしまったのと。このままでは簡単に嘘だと見破られてしまう。
何か言わなければ、と焦燥感に駆られて再び口を開いた。
「坂井は、器用すぎて逆に不器用なんだよ」
全然何も知らないただのクラスメート。もちろんそのはずだった。
それでも私は約一年、同じ委員会で坂井と一緒に色んなことを経験してきたのかもしれない。今まで特に気にしていなかったことが、ぽつぽつと思い起こされる。
「誰にでも優しくて親切にするからさ、みんなからこっそりパパって呼ばれてたんだよ。いつもちゃんとクラスのこと見てて、困ってる人がいたら放っておけない。俺がやるよ、って坂井の口癖ね」
私は何度も坂井に助けられた。いつの間にかそれが当たり前になってしまって、すっかり甘えていたのだと思う。
坂井の「俺がやるよ」を引き出そうとして、意図的に失敗したり、要領の悪さを演出したりするクラスメートがいることも、本当は分かっていた。期待を一切裏切ることなく、坂井はただ穏やかに笑って手を差し伸べるだけだった。
でも、違う。坂井は、みんなが思っているより器用な人ではない。
「前に、坂井が先生に怒られてるの見たことあるんだ。担任の先生。森先生っていうんだけどね」