ピカレスクに心酔


課題の提出が遅れてしまって、放課後に職員室へ赴いた時だ。
数学の佐々木(ささき)先生を探していると、先に目に飛び込んできたのは森先生だった。その傍らに立っていたのが坂井である。


『先月から四班だけ課題提出されてないから変だとは思ったけどな。もし俺が何にも言わずにそのまま記録してたら、班全員の成績に関わるんだぞ』


森先生のデスクに置かれていたのは、四、五人分の英語の課題プリントだ。毎週末、班ごとに回収をして提出する決まりになっている。
班員の誰か一人がみんなの分をまとめて森先生へ渡すのが暗黙の了解で、私の班は交代制だった。毎週同じ人が持って行ってくれる班もあったはず。坂井の班は当然というべきか、いつも坂井がその役割を担っていた。


『すみませんでした』

『まあ、今後は気をつけろよ。坂井がうっかり忘れるなんて珍しいな』


さくっと終わった森先生のお説教は、間違いなく坂井の普段の行いの良さが原因だろう。
うっかり、珍しい。その単語を聞き流そうとして――結局聞き流せずに、自分の足は既に動いていた。


『森先生』

< 56 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop