ピカレスクに心酔
私がその時わざわざ先生へ事実を伝えにいったのは、別に坂井のためではなかった。
今までも何度か同じ光景を見たことがあったからだ。どうせ坂井がやってくれるだろう、という誰かの惰性的な考えが積み重なって起こった不運は、結局いつも坂井のせいにされている。
坂井は毎回言い訳もせずやたら素直に「すみません」と頭を下げるものだから、見ているこっちが不完全燃焼なのだ。
頭の回転が速くて賢いのに、自分の仕事を他の人に分けようとか、他の人を利用して自分は楽をしようとか、そういう立ち回りをしないのが不器用だなと思う。
「だから私、密かに決意したんだよね。頭脳的な部分は坂井に任せるけど、逆に坂井が苦手そうな部分は私がちゃんとやるぞって」
坂井は何も言わないから。しんどいとか辛いとか――ましてや、助けてとか。一人で勝手に背負いこんで潰れられるくらいなら、私も勝手に動いて自分のできることをやろうって。
胸の内が全く見えてこない。穏やかで温厚なクラスメート、だったはずなのに。
「……ふーん」
静かに私の話を聞いていた忍が、やや退屈そうな声色でようやく相槌を打った。
一方的に話しすぎてしまったかもしれない。もしくは眠いのかな、と謝罪の言葉を口にしかけた時だった。
「なんかむかつく」