ピカレスクに心酔
真剣な時の横顔は、坂井でも忍でも変わらなかった。
同じ姿形をしているのだから当然と言えば当然で、だけれど宿る精神が違えば表情だって全く別物になる。こんなに柔らかくて優しい表情を、忍は絶対にしない。逆も然りだ。
忍と会う度、坂井と話す度、どっちも独立したそれぞれの人間なんだと思い知らされる。どっちも知っている私は特別なんだと錯覚しそうになる。
ただの偶然でしかないのに。
その日から坂井とたまに電話をするようになった。ほとんど私からで、ほとんど勉強を教えてもらうだけ。合間に漫画の話をした時、好きな系統が同じで意図せず盛り上がってしまった。
部活がない日の放課後は自習室に行って、最終下校時間の少し前まで残るのが定着しつつある。
最近は羊と一緒にいることが増え、ユキたちの機嫌を窺うこともなくなった。無駄に傷つくことも、傷つけることもしなくて済む。
実里に対して「優しいお姉ちゃん」でいることも、両親にとって「いい娘」でいることも、全部手放した。割り切ってしまえばどうということもない。もともと私は大して期待されていないのだから、それを自分の中できちんと消化しただけだ。
心の真ん中にぽっかりと大きな穴が開いてしまったような感覚がある。虚しいと思うのは、まだ優等生な自分を捨てられていないから?
涙はしばらく出ていない。忍はどうしているだろう。