ピカレスクに心酔
*


「朱南ちゃんも悩んでるの?」


昼休み、羊と二人でトイレに立ったタイミングだった。
唐突に投げかけられた質問の意図を理解できず首を傾げる私に、羊は「あ、分かりづらくてごめんね」と丁寧に言い直す。


「進路希望、まだ出してないみたいだったから……」


今週末が提出期限の用紙。未提出の人は日を追うごとに少なくなっていた。
朝のホームルームの後、私と羊だけが森先生に呼び出されて提出を念押しされている状態だ。

二年生になってから何度かアンケート形式で進路を問われたことはあるけれど、来年度のクラスの振り分けの都合上、今回が最後の進路希望調査になる。
つまり、今週中にはある程度自分の将来を見極めなければいけなかった。


「そうだねえ。悩んでるっていうか、特にやりたいこともないって感じかな? ほら私、別に頭いいわけじゃないし! 大学行ってまで勉強したいとも思わないしさ」


特に今は、誰かのために何かを頑張ろうという気力もない。自分のために自由になっていいはずなのに、いまいち何をすればいいのか分からないのだ。
期待をされない方が気が楽だし、人に見返りを求めない方が傷つかないし、前よりずっと生きやすくなった、のに。


「……良かった……」

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