ピカレスクに心酔
意外そうに目を瞬かせる羊は、普段とさして変わらないトーンで相槌を打った。
その様子に安堵しながら、いたたまれずに話題転換を試みる。
「ほんとほんと。特に狼谷くんのことになると周り見えなくなっちゃうしね~」
「えっ!? そ、そんなに……!?」
途端、顔を赤らめた彼女の慌てっぷりが面白い。
狼谷くんはすこぶる顔のいいクラスメート兼、羊の彼氏である。付き合う前から噂になっていた二人は、無事に結ばれてからも校内で有名なカップルだった。
「クリスマス前に喧嘩したって聞いた時は驚いたけど、冬休み明けはいつも通りで安心したよ」
「心配かけちゃってごめんね、ありがとう……」
「もうすぐバレンタインだね~」
チョコの練習しなきゃ、と小さく拳を握って意気込む彼女は、どうやらそこまでお菓子作りが得意ではないらしい。
もうしばらく実里の作ったお菓子を口にしていないことに気が付いて、胸の奥がちりついた。
「朱南ちゃんは、誰かにチョコ渡すの?」
どうして羊はいつも突然切り込んでくるのか。流れるように尋ねられ、言葉に詰まった。
「わ――私は別に、誰にも……」