ピカレスクに心酔
*
「おかえりー。……ちょっと、朱南?」
家に着いてからすぐに自室へ駆け込んだ。ただいまくらい言いなさい、と母の小言がドア越しに聞こえる。
ベッドに座り込み、呼吸を整えながら目尻を拭う。
『――嘘つくの、下手だね』
学校を出てひた走った。一刻も早く彼から離れなければならないと思った。なぜかなんて分からない。全身でそう感じたからだ。
笑っているのに歪んでいるような口元と、触れられた頬の熱さが頭の中を占めている。
心臓は普段より幾分も早く脈を打っていた。
でもそれは教室の前でユキたちの話を聞いている時のような、背中からじわじわと冷えていくような、嫌な脈拍の上がり方とは少し違う。
「お姉ちゃん?」
不意にノックが三回響いた。
急いで鏡を見る。目はそこまで赤くなく、これなら大丈夫か、と安堵した。
「いいよ」
私の返事を律儀に待ってドアを開けた妹は、すでに制服から着替え終わっていた。綺麗めなトップスにスカート、家の中なのに身だしなみに抜かりがない。
「今から晩ご飯の買い物行ってくるけど、何か食べたいものある?」
「おかえりー。……ちょっと、朱南?」
家に着いてからすぐに自室へ駆け込んだ。ただいまくらい言いなさい、と母の小言がドア越しに聞こえる。
ベッドに座り込み、呼吸を整えながら目尻を拭う。
『――嘘つくの、下手だね』
学校を出てひた走った。一刻も早く彼から離れなければならないと思った。なぜかなんて分からない。全身でそう感じたからだ。
笑っているのに歪んでいるような口元と、触れられた頬の熱さが頭の中を占めている。
心臓は普段より幾分も早く脈を打っていた。
でもそれは教室の前でユキたちの話を聞いている時のような、背中からじわじわと冷えていくような、嫌な脈拍の上がり方とは少し違う。
「お姉ちゃん?」
不意にノックが三回響いた。
急いで鏡を見る。目はそこまで赤くなく、これなら大丈夫か、と安堵した。
「いいよ」
私の返事を律儀に待ってドアを開けた妹は、すでに制服から着替え終わっていた。綺麗めなトップスにスカート、家の中なのに身だしなみに抜かりがない。
「今から晩ご飯の買い物行ってくるけど、何か食べたいものある?」