偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 だけど、企画がようやく最終決定に近づいたところで、大きな問題が起きた。

 これまで何度も修正を重ね、ホテル側とも広告会社とも方向性をすり合わせ、あとは細かな部分を詰めて実際に動き始めるだけ――そんな段階になって、L'ÉCRIN側から突然、プランを変更したいという申し出が入ったのだ。

「ちょっと、片瀬! 今さら何考えてんだよ!」

 緊急ミーティングが始まるなり、向かいに座っていた相沢さんが声を上げた。

「この段階でのプラン変更はないだろ。この前の打ち合わせで、これでいくって決まったじゃないか。このまま変更したら、制作も撮影も全部組み直しになるし、当然、宣伝開始だって後ろにずれる。中身に多少気になるところがあったとしても、周年企画そのものに間に合わないほうがよっぽど問題だろ!」
「……申し訳ありません。でも、ホテル側がこのまま進めることに難色を示してて」

「だったら、それを前の打ち合わせで言えばよかっただろ。こっちだって何回も案を出して、そのたびに修正してきたんだぞ」
「それはわかっているつもりです」

 相沢さんが怒る気持ちは、私にも十分わかっていた。

 博洋堂側では、すでに広告展開のスケジュールを組み始めている。
 企画が変われば、コピーもビジュアルも場合によっては一から考え直さなければならないし、それに合わせて関係各所への連絡も必要になる。

 もちろん、困るのは広告会社だけではない。
 こちらだって、チームで何週間もかけて話し合い、ようやくたどり着いた案だった。

 だからこそ、ホテル側から変更の希望が出たとき、私自身も最初は耳を疑った。

 相沢さんは納得できないという顔をしたまま、椅子の背にもたれた。
 その反応を見ながら、私は唇を軽く噛んだ。

 そこにいたチームメンバーも当然同じことを言った。

「今さら変更するなんて、さすがにホテル側のわがままじゃないですか……」
「一回認めたものを後から覆されると、こっちも動けませんよ」
「このまま支配人の意見を全部聞いていたら、いつまで経っても決まらないんじゃないですか」

 どれももっともな意見だった。
 私だって、リーダーでなければ同じことを言っていたかもしれない。
 それでも、どうしても引っかかっていた。
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