偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 南野支配人との話し合いは静かに始まった。

 こちらから急きょ時間をもらったこともあって、私は打ち合わせの部屋へ向かうまでのあいだ、何度も頭の中で考えていた。
 変更を申し出た理由を聞くこと、今の企画のどこに問題を感じているのかを確認すること、それでも変更が必要だと判断した場合には、スケジュールへの影響まで含めてもう一度話し合うこと……。

 それくらいは考えてきたつもりだったのに、いざ南野さんを前にすると改めて緊張した。

 南野さんはいつものように背筋を伸ばして椅子に座り、私が正面に腰を下ろしても急かすことなく、静かにこちらの言葉を待っている。

「先日ご連絡いただいた、周年企画の変更についてです」
「はい」

「正直に言うと、社内でも広告会社でも反対意見が出ています。もうかなり準備が進んでいますし、この段階で変更すれば、スケジュールにもかなり影響が出ます」
「そうでしょうね」

 あまりにもあっさり肯定されて、私は一瞬言葉に詰まった。
 こちらが困ることを理解していないわけではない。それどころか、変更がどれだけ大きな負担になるのか、南野さん自身も十分わかっているように見える。

 だったら、なおさら聞いておかなければならない。

「だからこそ、もう一度きちんと理由を聞かせていただきたいんです。南野支配人が、この段階になってまで変更したいと思われた理由を……」

 南野さんはすぐには答えなかった。

 テーブルの上に置かれた企画書へ一度視線を落とし、何かを確かめるように数秒黙ったあと、ゆっくりとこちらを見る。
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