偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「片瀬さん、どうでしょうか」
すぐには答えられなかった。この段階で企画の軸を変えれば、これまで作ってきたものの多くを見直すことになる。
博洋堂が進めている広告案も、チームのみんなが積み上げてきた企画も、場合によっては最初から組み直しになるかもしれない。
スケジュールは確実に厳しくなる。
私が変えると決めれば、その負担を背負うのは私だけではない。だからこそ、簡単に『変えます』とは言えなかった。
それでも、変えたいと思っている……。
「私は……変えたいです」
気づけば、そう答えていた。
「今の案も悪くないと思います。でも、五十周年なら、今までL'ÉCRINを支えてくれたお客様だけではなく、これから初めてL'ÉCRINを知る人にも届く企画にしたいです」
言葉にしながら、自分の中でも少しずつ考えが固まっていく。
「毎月泊まれる人じゃなくてもいい。一生に一度かもしれないし、何年かに一度かもしれない。でも、『今回は頑張ったから、自分のためにここに泊まろう』って思ってもらえるホテルになるのも、すごく素敵だと思います。自分へのご褒美、それに誰かにご褒美として提供したい人にも使ってもらえる……。考えただけでワクワクします」
黙って聞いていた南野さんは、いつもより柔らかい表情で頷いた。