偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

「ん……」

 唇が、そっと重なる。

 触れるだけの短いキスだったのに、握った手から伝わる体温まで急に意識してしまって、心臓が痛いくらいに鳴った。

 どうして慧さんがキスをしてくれたのか、まだわからない。

 婚約者のふりをするためなら、今は誰も見ていない。理玖に見せる必要もない。
 それでも私は、理由を考えるより先に、私もこの人とキスがしたかったのだと思っていた。

 ゆっくり唇が離れる。
 目を開けると、すぐ近くに慧さんの顔があって、彼はどこか安心したように優しく目を細めていた。

 途端に恥ずかしさが込み上げてきて、私は耐えきれずに視線を逸らした。

「こんなことしたら……本当の恋人とのデートみたいになるじゃないですか」

 自分で言ってから、何を言っているんだろうと思う。

 誰も見ていないところで手をつないで、キスまでして、それなのに今さら『本当の恋人みたい』なんて、あまりにもおかしい。

 けれど、慧さんは笑わなかった。

「……悠里」

 いつもより少し低い声で名前を呼ばれて、私はもう一度顔を上げた。

 さっきまでの柔らかな表情とは違って、慧さんはひどく真剣な顔で私を見ている。その目から逃げられなくなって、つないだままの手に自然と力が入った。
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