偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「あの……慧さん?」
「ああ」
「大丈夫ですか?」
一度息を吸ってから、慧さんがこちらを見る。
「父が倒れた」
思わず息を呑んだ。
「……え? お父さまが?」
「ああ。病院に運ばれたらしい」
「それは……すぐに行かないと!」
さっきまでの浮かれた気持ちが、一瞬で消えていく。
どんな状態なのかはわからない。
けれど、翠くんがわざわざ慧さんに電話をかけてきたくらいなのだから、軽い話ではないのだろう。
すぐに戻ろうと船着き場のほうへ目を向けたとき、慧さんが私の手を握った。
「それで、悠里」
「はい?」
いつもなら迷いなく何でも決める慧さんが、珍しく言葉を選ぶように一度口を閉じる。
握られた手に少しだけ力がこもった。
「……お願いがあるんだ」
「なんですか?」
「一緒に来てくれないか」