偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
第十章 彼の秘密
車に戻ってから話を聞くと、慧さんのお父さまは以前から心臓に持病を抱えていて、これまでも何度か急に具合が悪くなり、病院へ運ばれたことがあるらしい。
ただ、そのたびに大事には至らず、しばらく安静にすれば帰宅できる程度だったという。
「だから、今回もたぶん大丈夫だと思う」
慧さんはそう言ったけれど、ハンドルを握る横顔は、いつもより明らかに硬かった。
言葉では大丈夫だと言いながらも、赤信号で停まるたびに無意識に指先でハンドルを叩いているし、信号が変わればすぐに車を発進させる。
普段の慧さんなら、どんなトラブルが起きても必要以上に焦るところを見せないのに、今夜ばかりはそうはいかないらしい。
家族なのだから、当然だと思う。
「……心配ですね」
「そうだな」
彼の声には心配が滲んでいる。
私はそれ以上なにも言葉にせず、助手席で黙って前を向いた。
少し前まで、船の上でキスをして、これから本当の恋人になるのだと胸を高鳴らせていたのに、今はまったく違う緊張で胸がいっぱいになっている。
大丈夫だろうか。無事でいたらいいけど……。