偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「慧兄!」
奥の廊下から、こちらへ向かって走ってくる人影が見えた。翠くんだ。
以前、慧さんの部屋で会ったときと同じようにラフな格好をしているけれど、今日はさすがに少し顔が強張っている。それでも私の姿に気づくと、ぱっと表情を緩めた。
「悠里さんまで。ありがとうございます」
「翠くん。お父さまは?」
「今、もう処置が終わって落ち着いた。先生も、『今日はこのまま様子見で大丈夫。明日念のため検査してから退院できるだろう』って」
「そうか……」
その瞬間、慧さんの肩から力が抜けたのがわかった。
本人は気づいていないかもしれないけれど、ずっと心配していたのだろう。