偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
連れて来たって。
もしかして、私をお父さまへ紹介するつもりだったということだろうか。
付き合うことになってから、まだ一時間も経っていない気がする。
それなのに、もう父親に紹介?
あまりにも展開が早くて頭が追いつかない。
考えてみれば、三年間付き合った理玖の両親には一度も会ったことがなかった。
「じゃあ、ぜひ」
翠くんは楽しそうにそう言うと、私たちの背中を押すようにして病室のほうへ促した。
病室へ入ると、ベッドの上には体格のいい男性が上半身を起こして座っていた。
年齢は六十歳前後だろうか。
黒髪にはわずかに白いものが混じっているものの、病人とは思えないほど姿勢がよく、鋭い目元のせいか、ベッドの上にいても妙な迫力がある。
点滴につながれていなければ、本当に患者なのか疑いたくなるくらいだった。
「慧か」
「……父さん、大丈夫か」
「大げさなんだよ。これくらいで」
「みんな心配してるんだ。少しは自覚しろよ」
「俺は自分の身体のことくらいわかってる」
「わかってないから運ばれてるんだろ」
親子らしいと言えば親子らしいやり取りだけれど、私はそれを聞きながら、別のことが気になっていた。
この人……どこかで見たことがある。