偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「正直に言えば、相沢さんと別れたと知った時は嬉しかったよ。悠里が傷ついてるのに喜ぶのは最低だと思ったけど、それでも俺にとっては初めて可能性ができたからね。ただ、別れたばかりの悠里にすぐ告白するつもりはなかったし、しばらくは何もしないつもりだった」
「……何もしないつもりだった?」
「最初はね。でも、そのあと二人が揉めてるところに遭遇した」
慧さんの口元が、ほんの少しだけ上がった。
優しい微笑みではない。
仕事で何か狙いどおりに進んだときに、ごくたまに見せるような顔だった。
「俺は、あのチャンスだけは絶対に逃すつもりがなかった」
「……絶対って」
「絶対」
あまりにも迷いなく言われて、私は思わず慧さんを凝視した。
「でも、あのときは私を助けるために、咄嗟に婚約者って言ってくれたんですよね?」
「もちろん、それは本当だ。あの場で相沢さんから悠里を離したかったし、困ってる悠里を助けたかった。でも同時に、せっかくできた機会を自分から手放す気もなかった」
「……機会」
「悠里と堂々と二人で会えて、連絡も取れて、多少距離が近くても不自然じゃない関係になれる機会」
そこまで聞いた瞬間、なぜか背筋に妙なものが走った。