偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「でも、悠里が嫌がったら、その時点でやめるつもりだったよ。偽の婚約を続けるのも、二人で食事に行くのも、今日ここまで来るのも、全部悠里が選べるようにはしてたつもりだ」
「……その割には、ずいぶん上手に誘導された気がしますけど」
「そこは否定しない」
「否定してくださいよ」
「嫌だって言われてないのに、わざわざ止める必要ないだろ? 悠里は嫌なら嫌だというタイプだ」
「そういうところです!」
また声を上げると、慧さんは楽しそうに笑った。
仕事でも感じることはあったけど、この人はやっぱり策士だ。
それは仕事で交渉するときにだけ発揮される能力ではないらしい。
相手が何を考えているのかを見て、どこまでなら踏み込めるのかを確かめながら、少しずつ自分の望む方向へ持っていく。
私はこの五か月、そんな人を相手にしながら、自分だけがゆっくり恋に落ちたつもりでいたのだ……。