偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

第十二章 二人の夜


「さ、送っていく」

 そう言って慧さんがシフトレバーに手をかけ、車を出そうとする。
 けれど、私は咄嗟にその手を掴んだ。

「待ってください」
「……悠里?」

 慧さんが不思議そうにこちらを見る。

 さっきまで散々笑われたうえに、五か月ものあいだ自分だけ何も知らず、すべて偶然だと思っていたことの裏で、慧さんはしっかり自分の望む方向へ事を進めていた。

 もちろん、嫌なことをされたわけではない。むしろ嬉しい。
 ずっと前から好きだったと言われたことも、私に彼氏がいたから何もせずに待っていてくれたことも。別れてからもすぐには踏み込まず、私の気持ちが動くのを待っていてくれたことも……。

 全部、嬉しかった。
 嬉しいのだけれど、それとこれとは別だ。
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