偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
その時、慧さんがはっきりと目を丸くした。
それがなんだかおかしくて、それ以上に少しだけ嬉しい。
ようやく一矢報いた気がして、私は思わず笑った。
「……付き合って早々、ずいぶん積極的だな」
「悪いですか。私は慧さんと違って、裏で糸を引いたり、半年もかけて外堀を埋めたり、そういう器用なことできませんから。一緒にいたいときは、一緒にいたいって言います」
「外堀まで埋めた覚えはないんだけど」
「勝手に私の両親に期待を持たせました」
「それもあったな。……これはずっと言われるだろうなあ」
慧さんは困ったように笑いながらも、どこか楽しそうだった。
「これから長いんですから覚悟しておいた方がいいですよ」
「そうだな長いよな」
つまり私は、今日始まったばかりのこの関係が、これからもずっと続いていくことを当然のように口にしたのだとそこで気づいた。
急に恥ずかしくなって手を離そうとしたけれど、今度は逆に慧さんに掴まれた。
「煽ったのは悠里だからな。これからもだが、今夜も長くなる覚悟はできてるな?」
「え……」
たった今まで私が少し優勢だったはずなのに、あっという間に取り返されてしまった。
「……やっぱり、家に帰ろうかな」
「もう遅いな。自分から泊まりたいって言ったんだから、今日は付き合ってもらうよ」
そう言って笑う顔が、悔しいくらい格好よかった。