偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
シャワーを終えてリビングへ戻り、今度は慧さんが浴室へ向かった。
一人になれば少しは落ち着くかと思ったのに、むしろ逆だった。
ソファに座っていても、時計の音まで妙に耳につく。
やがて浴室の扉が開く音がして、しばらくすると慧さんが戻ってきた。
ラフな部屋着姿を以前も見たはずなのに、今日はどうしてかまともに見られない。
「……なんで目逸らすの?」
「逸らしてませんけど?」
「さっきまであんなに威勢よかったのになぁ」
くすりと笑われ、私はむっとして顔を上げた。
「さっきから、ほんと意地悪じゃないですか?」
「そう? 嬉しいんだよ。きっと」
そう言って、慧さんがこちらへ歩いてくる。
一歩。もう一歩。
それだけで、さっきまであれほど言い返していたはずなのに、私は何も言えなくなった。