偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
第十三章 特別な人~慧side
昔から俺は、自分がどうしたいか、なんてことを真剣に考えたことがなかった。
目の前にやるべきことがあれば、それをやる。求められた水準があるなら、そこを越える。
仕事なら結果を出せばいいし、そのために何が必要かを逆算して動くことは、昔から苦にならなかった。
むしろ、自分の感情を基準に何かを選ぶことのほうが苦手だった。
家のことに関しては、なおさらだ。
父と母が離婚したときも、その後のことも、自分の意思だけではどうにもならないことが多すぎたのだ。だったら最初から、望まなければいい。期待しなければ、思いどおりにならなくても腹は立たない。
ただ、翠のことだけは別だった。
翠には、自分で選ばせてやりたかった。翠は感情がはっきりしていて、いろんなことに興味を持っていた。
何を勉強するかも、どこへ行くかも、将来何になるかも、高遠という家とは関係なく決めればいい。そのために俺ができることがあるなら、やっておこうと思った。
俺が高遠グループに入ったのも、その延長でしかない。
もし将来、翠が高遠を継ぎたくないと言ったとき、代わりに引き受けられる人間が一人いたほうがいい。
自分が継ぎたいからではなく、翠が継がなくてもいいように……。