偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「俺の結婚まで、仕事の一部みたいに扱わないでください」
「そんな言い方はしてない。ただ、家同士のつながりを考えることは、別に珍しいことじゃないだろ。嫌なら自力で私が納得できる相手を連れてきなさい」
「そもそも結婚する気はないと言っているでしょう。俺は会社の駒じゃありません。あなたの駒でもない」
きっとこの人にとっては、昔からそうなのだ。
会社も。結婚も。家族も……。
目的のために必要なものを、必要な場所へ置く。
もしかしたら母もそうだったのかもしれない。
俺も。翠も。高遠という家を維持するために必要な駒のひとつだ。
そう考えた瞬間、これ以上話している意味はないと思った。
「見合いはしません。その話なら、今後も答えは同じです」
「そのうち考えは変わる」
「変わりませんよ」
そう言い切って、社長室を出た。
ただ、今思えば。
あの頃の俺は、父に人生を決められることをあれほど嫌っていたくせに、自分で自分の人生を決めていたわけでもなかった。
自分の言動の中心に『俺がどうしたいか』があったわけではなかったのだ。
――自分から本気で欲しいものを選んだことは、一度もなかったのだから、選び方もわからなかったのだ。