偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

 彼女の姿を探していると、会社から少し離れた橋にある椅子の上に、彼女は座っていた。
 そして、すごく幸せそうな顔で缶ビールを飲んでいたのだ。

「片瀬?」
「……え、ぶ、部長!」

 初めて、自分に見せた彼女のプライベートな顔だった。
 困ったように彼女は笑い、コンビニの袋を見せた。

「まだあるので、部長も飲みます? ……なんて」
「いいの?」

 俺は思わず聞いていた。

「え? あ、いいなら、もちろん……」

 悠里はそう言い、ビールを差し出した。
 そして二人で乾杯する。

「引きましたよね。でも、このプロジェクト終わるまでずっと我慢していたので、もう我慢できなくて」
「店じゃないんだ?」
「このあたり、会社多くて週末どこもいっぱいなんですよ。あ、でも、普段は家で飲んでますよ? 今日は特別。天気もいいし、外が気持ちよくてつい。だけど、こんなとこ、部長に見つかって、今めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど」

 恥ずかしそうな顔に、でもはにかむ笑顔に、俺は心惹かれてしまう。

 プライベートで緩んだ彼女の感情を見たのは、これが初めてだったからかもしれない。

 その時、初めて女性に対して、『かわいい』なんて感情が芽生えた。
 そんな俺の気も知らず、悠里は続ける。

「仕事頑張って、最後にこれがおいしく飲めたら、それでもう十分っていうか。これのために仕事頑張ってるところがあって」

 そう言って、一口飲むと、本当に幸せそうに笑った。

「いつも真剣に仕事してるもんな」
「仕事は好きです。ここに入るために就活めちゃくちゃ頑張りましたし。でも、自分で選んだ場所でも、やっぱり失敗も緊張も辛いこともあるから……こうして1日の最後に自分を頑張ったって褒めてあげるとまた次の日も頑張れるんですよね」

 悠里は俺に少し似ていると思ったけど、全然違った。彼女は小さくてもきちんと自分で好きなものを選んで進んでいる。
 彼女はまたビールを一口飲んで、表情をへにゃりと緩めた。

「おいしー」
「あぁ、うまいな」

 そんな彼女の隣で飲む缶ビールは、どんな料亭の高い酒よりも美味しいと感じた。
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