偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 それから、悠里が妙に目につくようになった。
 よくよく見てみれば、悠里は嬉しい場面や焦る場面では表情がしっかり違った。それに気づくと、またさらに彼女を見てしまう。

 最初は、自分でも仕事の延長だと思っていた。
 部下なのだから、忙しそうにしていれば気にかけるのは当然だし、仕事がうまくいって嬉しそうにしていれば、上司として悪い気はしない。何か問題を抱えていそうなら気づくのも、部長という立場なら当たり前のことだ。

 そうやって、いくらでも理由をつけることはできた。
 けれど、仕事には何の関係もないことまで気になるようになった時点で、さすがに言い訳は苦しくなった。

 朝、いつもより少し眠そうなら、昨日また遅くまで仕事のことを考えていたのかと思ったし、昼休みに三原と楽しそうに話していれば、何をそんなに笑っているのか気になった。

 ひとつ大きな仕事を終えて、ほっとしたように息を吐いているのを見れば、今日も帰ったらあのビールを飲むんだろうかと、どうでもいいことまで頭に浮かんだ。

 そのうち、笑っているところをもっと見たいと思うようになった。
 仕事の相談だけではなく、どうでもいい話もしてみたい。

 何が好きなのか。休日に何をしているのか。
 どういう店へ行って、何を食べて、どんなことで笑うのか。

 今までなら、部下の私生活なんて知る必要はないと思っていたはずなのに、悠里のことだけは知りたいと思った。

 あの一日の終わりに飲むビールの時間に、いつか自分も並びたい。

 そんなことを考えている自分に気づいたとき、ようやく認めるしかなかった。

 ――俺は、悠里を好きになっていたのだ。
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