偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
気づいた瞬間、思わず一人で笑った。
よりによって、相沢さんと付き合っている女性を好きになるとは思わなかった。
恋愛そのものに興味がないと思っていた男が、ようやく誰かを好きになったと思えば、その相手にはもう恋人がいる。
ずいぶん効率の悪い話だ。
けれど、だからといってどうにかしようとは思わなかった。
悠里が相沢さんを選んで付き合っているのなら、それを邪魔する権利は俺にはないし、上司という立場を利用して気持ちを伝えるつもりもなかった。
まして、仕事で毎日のように顔を合わせる相手に告白して、悠里を困らせることだけはしたくなかった。
だったら諦めるしかない。そう判断した。
いつもの俺なら、きっぱりそこで終わるはずだった。
でも、終わらなかった。
姿を見れば、無意識に目で追ってしまう。
少し離れたところで声が聞こえれば、誰と話しているのかがわかったし、誰かと楽しそうに笑っていれば、何を話しているのだろうと思った。
そして相沢さんと一緒にいるところを見れば、面白くなかった。
それが一番、自分でも厄介な感情だった。
彼氏なのだから一緒にいるのは当然だ。
悠里自身が選んだ相手なのだから、俺が口を挟むことでもない。
頭ではいくらでもそう理解できるのに、実際に二人が並んで歩いているところを見ると、胸の奥にどうにも処理しきれないものが残った。
嫉妬なんて、もっと感情的な人間がするものだと思っていた。
まさか自分が嫉妬なんてする日が来るとは思わなかった。
しかも、それを誰にも悟られないよう平然と仕事をしている。
我ながら滑稽だ。
それでも、その感情を持て余しているうちに、俺はようやく気づいた。
俺はずっと、自分がどうしたいかなんて考えなくても生きていけると思っていた。
実際、それで三十年以上困らなかった。
でも今は違う。
そばにいたい。もっと話したい。
笑っているところを見たい。
仕事が終わったあと、あの美味そうにビールを飲む時間を自分と過ごしてほしい。
困ったときには、一番に頼ってほしい。
嬉しいことがあったときには、それを一番に聞かせてほしい。
そこには、他人の希望や合理性なんて何ひとつなかった。
ただ、俺がそうしたかった。ただ、悠里が欲しかったのだ。