偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

 だから、そのあと悠里が相沢さんと別れたと知ったとき。
 少なくとも表向きには何でもない顔をしていたけれど、内心ではかなり動揺した。

 悠里が傷ついていることを思えば、喜んでいいことではない。
 それでも同時に、今まで完全に閉じていた扉が、ほんの少しだけ開いたような感覚があった。

 すぐに何かするつもりはなかった。

 別れたばかりの悠里に近づくのは違うと思ったし、俺の都合で急かすつもりもなかった。
 少し待ってから動こうと思っていた。

 ところが、その前に、悠里と相沢さんが揉めているところへ、偶然居合わせる。
 そして俺は、その場で悠里の偽の婚約者になるという、普通ならあり得ないような立場を手に入れた。

 もちろん、最初に考えたのは悠里を助けることだ。
 困っているなら助けたい。怖がっているなら、そこから離してやりたい。それは嘘ではない。

 けれど、同時に思った。
 こんな機会は、二度とない。

 悠里のそばにいられる。連絡を取る理由ができる。
 二人で食事をしても不自然ではない。

 俺が彼女を気にかけても、偽の婚約者だからという理由で受け入れてもらえる。
 自分でも、ずいぶん都合のいいことを考えているとは思った。

 もちろん、悠里が本気で嫌がったなら、その時点でやめるつもりだった。
 俺が欲しいのは、俺を嫌がりながら隣にいる悠里ではない。

 自分の意思で、俺の隣を選んでくれる悠里だった。

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