偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「やっぱり慧兄のほうがベタ惚れなんだね。だって、諦めるつもりないんでしょ?」
「ない」
即答した。翠が一瞬黙り、そのあと吹き出した。
「即答って! 悠里さん、大変だなぁ。がんばってほしい」
「なんで悠里の側を応援するんだよ」
「だって慧兄、本気になったら絶対面倒くさいと思うもん」
そうか? という俺に、翠は頷いて笑った。
まだ悠里には、俺が高遠の人間だということも、父とのことも、翠のためにこの会社へ入ったことも、何ひとつ話していない。
そもそも、偽の婚約者になった今だって、悠里が俺を男として見ているかどうかさえわからなかった。
相沢さんとのことで怖い思いをしたばかりの彼女が、もう一度誰かと付き合いたいと思えるまでには、時間が必要だろうとも思っていた。
それなら、待てばいい。急ぐ必要はない。
半年あるのだ。
その間に、少しずつ俺を知ってもらえばいい。
上司ではなく。偽の婚約者でもなく。一人の男として……。
俺に諦める気は、最初からさらさらなかった。