偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!




***

 腕の中で、悠里が小さく身じろぎした。

 起こさないように腕の力を少しだけ緩めると、薄いシーツの隙間から覗く白い肌に、昨夜、自分が残した痕がいくつか見える。
 そこへ指先をそっと這わせながら、昨夜のことを思い出しただけで、勝手に頬が緩んだ。

 あれだけ恥ずかしがっていたくせに、最後には自分から俺に腕を回してきたことも、最中に可愛い声で何度も名前を呼ばれたことも、まだ鮮明に残っている。

 思い返せば、どうしたって嬉しくなる。

 ――だって慧兄、本気になったら絶対面倒くさいと思うもん。

 ふと、以前翠に言われた言葉が頭をよぎった。

 面倒くさい?
 そんなことはないだろう。

 眠っている彼女を腕の中に抱いたまま、もうかなりの時間が経っているのに、まったく眠くならないだけだ。

 ただずっとこうして眠る彼女の幸せそうな顔を見ていたいだけ。
 そして目を覚ましたら、最初に俺を見てほしいと思うだけ。そして、できれば、そのままずっとここにいてほしいだけ。

 ……これを面倒くさいと言うのだろうか?

 いや、それくらいは好きなら普通だろう。
 そう結論づけながら、眠る悠里の頬にかかった髪を指でそっと払う。

 すると彼女がまた小さく身じろぎして、無意識に俺の胸元へ少しだけ寄ってきた。
 それだけで、また口元が緩んだ。
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