偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 それから、高遠家にも少しだけ変化があった。

 これは私が勝手にしたことなので、慧さんには「余計なことをするな」と少し怒られたのだけれど、私はこっそりお父さまに教えてしまったのだ。
 お父さまが倒れたあの日、病院に向かうまでの間、慧さんがどれだけ心配していたかを……。

 本人は「父親が倒れたんだから普通だろ」と言っていたけれど、それを聞いたお父さまは、しばらく何も言わなかった。

 それから少しずつ、二人の距離は縮まっている。
 劇的に仲直りしたわけではないし、今でも意見が合わなければぶつかる。

 それでも今では、私と翠くんも含めた四人で、二か月に一度くらい食事をするようになった。

 ある日の食事会では、お父さまが私に向かって、少し困ったように言った。

「慧は昔から頑固だから、君も苦労するだろう」
「はい」

 経営方針について話もしているらしい二人は、時々意見が真っ二つに分かれるようだ。

 私はお父さまの言葉に素直に頷いた。隣から不満そうな視線が飛んできたけれど、私はお父さまと慧さんを見比べる。

 二人をこうして並べて見ると、やっぱり親子だと思うところがたくさんあった。だから……。

「でも、それはお父さまに似たんだと思いますよ」

 一瞬、しん、とした。
 言ってから、さすがにまずかったかもしれないと思った瞬間――。

「ははっ!」

 最初に吹き出したのは翠くんだった。

「それ絶対そう! 僕もずっと思ってた!」

 隣を見ると、翠くんの爆笑に、慧さんまでつられて笑っている。

 恐る恐るお父さまを見ると、しばらく何とも言えない顔をしていたものの、やがて小さく笑った。

 きっと、これからもぶつかることはある。
 それでも、こうして同じテーブルを囲んで、言いたいことを言い合って、最後には笑える。

 今はそれで十分なのだと思う。
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