偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
それにしても、これまであまり意識したことはなかったけれど、こうして改めて考えてみると久世部長という人は少し不思議だ。
三十一歳……いや、正しくは部長職についたのは二十八歳という若さで部長に抜擢されるほど仕事ができることは知っていても、休日に何をしているのか、誰と過ごしているのかといったプライベートな部分はほとんど見えない。
それに、あれだけ整った容姿をしていれば女性が放っておかなそうなのに、社内で浮ついた噂を聞いたことも一度としてない。
真面目すぎてモテない――という可能性もあるのだろうか。
いや、さすがにそれはない気がする。
「そういえば、久世部長もフリーらしいですよ」
「……え?」
心の中を読まれたのかと思うほど絶妙なタイミングで隣の席から声が飛んできて、ぎょっとして振り向く。
すると、話を振った三原さんが自信のパソコンの画面を閉じ、自分の鞄を肩にかけてこちらを見た。
「だから、久世部長。今、彼女いないらしいですよ」
「なんで三原さんが部長のそんなこと知ってるの?」
「私の情報網を甘く見ないでください。それに片瀬さんもフリーですよね? 相沢さんと別れて二か月だから、彼氏なしで二か月かあ。私だったら耐えられないかも」
「私は元カレと付き合うまで二十五年間彼氏いなかったんだけど」
「えっ!? 相沢さんが初彼だったんですか!?」
「……や、やっぱそんなに驚くこと?」
「驚きますよ! じゃあ今まで彼氏ひとりだけ? それで三年も付き合って別れたなら、なおさら次に行きましょうよ。もったいないですよ」
彼氏が途切れたことなどほとんどないという三原さんは、二か月も恋人がいないなんて信じられないらしい。
でも、そもそも私は理玖と付き合っている間でさえ、恋人がいることによって人生が劇的に楽しくなったとは感じていなかった。
三年間の交際を経て出した結論は、やっぱり今の私には恋愛より仕事のほうが面白い、というものだった。
実家に帰省するたびに期待を寄せているのが見える故郷の両親にはわるいが、結婚もきっとできないだろう。