偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「はい。部長さえよければ……よろしくお願いします」
「ああ」
私の返事を聞いた久世部長はどこかほっとしたように眉を下げて頷く。そして、契約でも交わすように右手を差し出してきた。
「じゃあ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
差し出された手を握り返すと、大きな手のひらに包まれた指先から温かさが伝わってきた。
まさか自分が直属の上司とこんな奇妙な約束を交わすことになるなんて……。
でも、これでようやく理玖から解放されるかもしれないという安堵のほうが、このときの私にはずっと大きかった。
だから、気づかなかった。
この偽りの関係を始めることに、彼のほうにはひとつも迷いがなかったことを……。