偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「あのときは咄嗟に呼んでしまったけど、これからプライベートでは名前で呼んでいいか? 婚約者なのに『片瀬』じゃ、さすがにおかしいだろ」
「はい、もちろんです。私もあのときは咄嗟に慧さんって呼んじゃって、すみませんでした」
「いや、それは別にいいんだ。ただ、俺の名前を知ってたんだなと思って、ちょっと驚いたよ」
「それくらい知ってますよ。メールでもフルネームでよく見ますし、そもそも自分の上司の名前ですから」
「はは、それもそうか」
そう言って久世部長が声を立てて笑った。
仕事中にはほとんど見たことのない表情が思いのほか柔らかくて、私はなんとなく目を逸らすことができず、その笑顔をじっと見つめてしまった。