偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
ランチを終えて会社に戻ると、久世部長は席に着く間もなく次の打ち合わせへ向かい、その背中をなんとなく目で追ってから自席に戻った。
すると、それを待っていたとでもいうように三原さんが椅子ごとこちらへ近づいてきて、私の横にぴたりとくっついた。
「なんだったんですか、部長? 二人でランチなんて珍しいじゃないですか。もしかして……」
「えっ」
まさか何か気づかれたのだろうかとドキリとして三原さんを見ると、彼女は何かを探るように私の顔をじっと見つめたあと、ぱっと目を輝かせた。
「もしかして片瀬さん、出世ですか!? チーフになるとか、そういう話だったんじゃないですか?」
「いや、そういうのじゃなくて!」
思いきり違う方向から飛んできた言葉にほっとしたはずなのに、必要以上に大きな声で否定してしまう。これではかえって怪しまれると慌てて声を落とした。
「ちょっと……ク、クライアントのことで相談があってね。それだけだから」
クライアント――というより正確には理玖について相談していたのだから、まったくの嘘ではないはずだ。
三原さんは特に疑うこともなく「ああ」と納得したように頷いた。