偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
家の前に車が停まり、シートベルトを外して助手席から降りようとしたところで、久世部長に呼び止められた。
「帰ったらすぐ風呂に入って、ちゃんと温かくしておけよ。今日はもう無理して仕事もしなくていいからな」
「はい。来週大事なプレゼンですしね。風邪なんて引いてる場合じゃないですから」
「そうじゃなくて、悠里の身体が心配なだけ。以前も風邪を拗らせてただろ。回復してからも長く喉をつらそうにしてて」
「……え? そういえばそんなこともあったような……」
「じゃあ、また来週な」
そう言って久世部長は軽く手を上げ、車はそのまま走り出してしまった。
ひとり残された私は遠ざかっていくテールランプを見送りながら、さっきの言葉を頭の中でもう一度繰り返した。
仕事に支障が出るからではなく、私の身体が心配なだけ。
以前の風邪のことも覚えてたのか。確かにあの時は辛かった。
理玖は見舞いだと言ってうちに来たけど、邪魔しかせず風邪はさらに悪化。喉の腫れだけ長く残ってしまったが、仕事でのプレゼンは部長が代読してくれたりして……。私の方がすっかり忘れてた。
急に頬のあたりが熱くなった。私は誤魔化すように両手で頬を包む。
「なにそれ……」
偽の婚約者になってもらったのはほんの二週間ほど前だというのに、久世部長の振る舞いや言動には妙な自然さがある。
部長って、実は前から私の本当の彼氏だったんじゃないか。
そんな馬鹿なことまで思ってしまうほど、いちいち言葉や行動がそれらしい。
やっぱり学生時代の部長は演劇部にでも所属していたのだろう。
うん、きっとそう。今度聞いてみよう。
今度する会話を想像して、私は軽い足取りで自宅に入った。
「帰ったらすぐ風呂に入って、ちゃんと温かくしておけよ。今日はもう無理して仕事もしなくていいからな」
「はい。来週大事なプレゼンですしね。風邪なんて引いてる場合じゃないですから」
「そうじゃなくて、悠里の身体が心配なだけ。以前も風邪を拗らせてただろ。回復してからも長く喉をつらそうにしてて」
「……え? そういえばそんなこともあったような……」
「じゃあ、また来週な」
そう言って久世部長は軽く手を上げ、車はそのまま走り出してしまった。
ひとり残された私は遠ざかっていくテールランプを見送りながら、さっきの言葉を頭の中でもう一度繰り返した。
仕事に支障が出るからではなく、私の身体が心配なだけ。
以前の風邪のことも覚えてたのか。確かにあの時は辛かった。
理玖は見舞いだと言ってうちに来たけど、邪魔しかせず風邪はさらに悪化。喉の腫れだけ長く残ってしまったが、仕事でのプレゼンは部長が代読してくれたりして……。私の方がすっかり忘れてた。
急に頬のあたりが熱くなった。私は誤魔化すように両手で頬を包む。
「なにそれ……」
偽の婚約者になってもらったのはほんの二週間ほど前だというのに、久世部長の振る舞いや言動には妙な自然さがある。
部長って、実は前から私の本当の彼氏だったんじゃないか。
そんな馬鹿なことまで思ってしまうほど、いちいち言葉や行動がそれらしい。
やっぱり学生時代の部長は演劇部にでも所属していたのだろう。
うん、きっとそう。今度聞いてみよう。
今度する会話を想像して、私は軽い足取りで自宅に入った。