偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「もう、いい加減にしてよ。その話をこれ以上引きずるなら、今日の観光、私付き合わないからね」
「大事な話だろ。親としては悠里の将来が心配なんだから」
「はいはい、わかったから。せっかく東京まで来たんだし、もう行こう」
これ以上話していても平行線だと、私は少しむっとしたまま両親の荷物を部屋に置き、先に廊下へ出る。
まだ何か言いたそうな父と、そんな私たちを見て苦笑している母もあとからついてきた。
「ねえ悠里、お母さん、せっかくだからスカイツリーを見たいわぁ。まだ一度も行ったことないのよ」
「うん、わかった。じゃあ今日はスカイツリー行こうね。そのあたりでご飯も食べよう」
結婚の話が終わった途端にすっかり観光気分へ戻った母に苦笑しながら、三人でエレベーターに乗って一階まで降りる。
ホテルのロビーへ出たところで、私は見覚えのある長身の男性に気づいて足を止めた。
――久世部長だ。