偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

 ――いやいや。
 なにを考えているの、私。

 どれだけ完璧に彼氏らしく振る舞ってくれていても、久世部長はあくまで偽の彼氏で、正確に言えば偽の婚約者なのだ。

 何度説明しても聞く耳を持たない両親を相手にすることにもだんだん疲れ、途中からは否定こそしなかったものの肯定もしないという方法でやり過ごした。

 だけど、それが両親にとっては『否定しないということはやっぱり付き合っている』という解釈になったらしい。

「じゃあ悠里、また連絡するわね。次に東京に来たときは、久世さんとも一緒にお食事したいわぁ。よろしく伝えておいてね」
「いや、だから――」

「お父さんも一度ゆっくり話してみたいな。今回は仕事中だったし、ほとんど話せなかったから」
「もう……好きにして」

 別れ際までそんなことを言われ、訂正する気力もなく両親を見送った。

 これでようやく終わったとほっとしていたのだけれど、二人が地元へ帰ってしばらくすると、今度は兄の海里からメッセージが届いた。

【いい男捕まえたんだって? さすが俺の妹だ。今度は俺も行って挨拶しないとな】

 どうやら両親は帰るなり兄にまで報告したらしい。
 私はスマートフォンを握り締めたまま、本気で卒倒しそうになった。
< 53 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop