偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 そんな週末を過ごしたせいか、週明けに出社して久世部長の姿を見つけた瞬間、私は挨拶をするより先につい恨めしげな視線を向けてしまう。
 それに気づいた彼が怪訝そうに眉を上げた。

「なんだ? 朝からずいぶんな目で見られてる気がするんだが」
「……両親が完全に誤解して、大変だったんですから」

「この前のことか?」
「そうですよ。部長が『言ってないのか』なんて意味深なこと言っていなくなるから、あのあと一日中大変だったんですよ。兄にまで話が伝わったんですからね」

「ハハハ」
「全っ然、笑い事じゃないですけど」

 声を抑えて抗議しているというのに、久世部長は悪びれるどころか楽しそうに笑い出した。
 誰のせいであんな目に遭ったと思っているのだろうとますます不満が募る。

「すまない。でも、婚約者のふりをするって決めた以上、あそこで『違います』と言うのも不自然だろ? 誰が聞いてるかわからないし」

「それは……そうですけど……」
「まぁ困ってるなら、ちゃんと誤解は解くから」

「そうですね。ぜひそうしていただけると幸いです。この偽物の期間が終わった後にでいいですから」
「わかった。次に会ったら、ちゃんと話すよ」

「ぜひお願いします」

 これで一件落着だとばかりに頷いた私を見て、なぜか久世部長はまた小さく笑った。
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