偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
何がおかしいのだろうと憮然としながら自席へ戻ると、すぐに三原さんが驚いたような顔でこちらへ身を寄せてきた。
「え、今、部長笑ってませんでした?」
「笑ってたね……」
「ですよね!? びっくりしました。部長でもあんなふうに笑うことあるんですね。別にいつも不機嫌ってわけじゃないですけど、声出して笑ってるところなんて私、見たことないですよ。飲み会でも笑わないし」
人の気も知らないで楽しそうに笑って――と言いそうになったものの、どうにか飲み込んでから三原さんの言葉を考えてみる。
確かに以前の私なら、久世部長があんなふうに笑うこと自体を珍しいと思っていたはずだった。
けれど、偽の婚約者になってもらってからというもの変わった。
ランチでも笑っていたし、会社の外では柔らかい表情を見ることも増えたせいか、いつの間にかそれをそれほど珍しいとは感じなくなっている。
「……今日は機嫌がよかったんじゃないかな」
「そうなんですかね。でも、週明けの朝からあんなに機嫌がいいなんて、週末になにかいいことでもあったんでしょうか」
「さあ……どうだろうね」
三原さんは納得できないように首を傾げながら久世部長のほうを見ていたけれど、私もそれ以上は何も言わず、パソコンの画面へ視線を戻した。
ただ、さっきまで腹が立っていたはずなのに、久世部長が笑っていた顔を思い出すと、なぜか私まで少しだけ口元が緩んでしまった。