偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
 私の自宅は、会社の最寄り駅から二回乗り換えた三駅目にあり、そこから十分ほど歩いたところに建つ、オートロック付きのマンションだ。

 ひとり暮らしにしては少し家賃が高いものの、東京に出てくるときに両親から「セキュリティだけはしっかりしたところにしなさい」と強く言われたことに加え、会社から家賃補助も出るため、多少の負担は安心を買っていると思ってここを選んだ。

 管理人さんも夜八時まではいてくれるので、帰宅が遅ければ顔を合わせないこともあるけれど、休日にもいてくれるし、何か困ったことがあればすぐ相談できるという安心感は大きい。

 その日も仕事を終えてマンションまで帰ってくると、鍵を使ってオートロックを開け、自宅のある二階までエレベーターではなくいつものように階段を上がった。

 ようやく今週も終わったという解放感から、帰りに寄ったコンビニでは缶ビールにおつまみ、デザートまで買い込んでしまった。
 少し買いすぎた気はする。でも、一週間仕事を頑張ったあとに飲む缶ビールは格別なのだから、今日くらいはいいだろう。

 帰ったらすぐお風呂に入って、それからビールを開けよう。夕食はそこから作ればいい。

 そんなことを考えながら二階の廊下へ出たところで、端にある自分の部屋の前に誰かが立っていることに気づいた。それでも、まさか私の部屋ではないだろうと思いながら顔を上げる。

 けれど、そこに立っていたのは――理玖だった。
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