偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

「そ、それよりさ、ここオートロックだよ。理玖、どうやって中に入ったの?」
「そんなの簡単だろ。住人が入るときに一緒に入っただけだよ」

「それって不法侵入じゃん。住んでる人でも、誰かに呼ばれたわけでもないのに勝手に入ってきたんでしょ?」
「何言ってんだよ。俺は悠里を心配してるんだろ。だからずっと調べてたんだよ、お前たちのことも」

「……調べてた?」
「だっておかしいだろ。婚約までしてるのに、二人で会うのはランチくらいで、仕事が終わったらそれぞれ別々に帰ってる。普通、結婚するほど好きな相手ならもっと一緒にいるだろ」

 理玖が何をどこまで調べていたのかわからず、背中に冷たいものが伝った。

 けれど、それと同時に、どうして理玖は自分の考える『普通』に私を当てはめようとするのだろうという、付き合っていた頃から何度も感じてきた疑問が蘇った。

 本当に付き合っていたとしても、お互い仕事が忙しければ毎日のように会わない恋人だっているだろう。
 少なくとも久世部長なら、自分が会いたいからという理由だけで私の都合を無視したりはしない。

「あのさ、理玖は心配って言うけど……本当に私のことを心配してるの?」
「してるに決まってるだろ。だからこうしてわざわざ来たんじゃないか」

「嘘だよ。だったら、私が今、一番嫌だと思ってることが何かわかる?」
「何が?」

「こうやって家の前で待ち伏せされること。それも勝手にオートロックの中まで入ってきて……私、こういうの本当に嫌だよ」

「何言ってるんだよ。だから俺は心配して――」

 そう言いながら理玖は宥めるように私の肩へ手を伸ばしてきた。
 その指先が触れた瞬間、身体が勝手に拒絶するように肩を大きく動かして、彼の手を振り払った。

 理玖の顔に一瞬だけ不満そうな色が浮かんだのを見て、やっぱりそうだと思った。
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