偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「やめて!」
夢中で理玖の身体を押し返し、腕が緩んだ隙に踵を返す。
自分の部屋へ入ったらおしいられるのではと怖くなった私は、そのまま階段を駆け下りてマンションの外へ飛び出した。
「悠里! 待てって!」
後ろから追いかけてくる足音が聞こえ、振り返る余裕もないまま走り続ける。
少しして、先にある細い路地へ飛び込んで建物の陰に身を潜め、息を殺すようにその場へしゃがみ込んだ。
「悠里?」
遠くから理玖が私の名前を呼んでいる。
その声を聞くだけで身体が震えていた。
バッグからスマートフォンを取り出した私は、ほとんど考えることもなく、少し前に交換した連絡先からひとつの番号を選んで電話をかけていた。
きっと電話なんてすることはないだろうと思っていた番号だった。
三回目のコールが鳴ったところで、相手が出た。